書評

【書評】イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

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こんにちは、此町サンタです。

突然ですが、あなたは圧倒的な知的生産がしたいですか?

いつもあと一歩が届かず微妙な仕事しかできていない。

一定期間に決定的なアウトプットがしたい。

誰にも実現できていないオリジナルな知的生産がしたい。

今回は、知的生産の方法論を考えている方にオススメの『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』をレビューします。

著者の安宅和人氏は、マッキンゼーで働いた後に研究者となったので、本書も論文調で書かれています。そのため、理解するのが比較的難しい本になっています。(論文は最先端の研究成果であり、先行研究や基礎知識は省いて書かれる傾向にあるため。)

本記事では核心を読み取り、全ての方の出発点となれるよう努力します。皆さんも少々気合を入れて読んでみてくださいね!

価値のある仕事とは何か?

知的生産にとって重要なことは、より価値のある仕事が生み出せることであります。よって、より価値のある仕事を生み出すための方法論を徹底的に考える必要があります。

また、価値が高くても莫大な時間がかかってしまうと価値が目減りしてしまいます。従って、一定期間で価値のある仕事をするためにはどうすればいいのか、ということを考えなければなりません。

著者の安宅氏は、価値の本質とは2つの軸から成り立っており、一つ目が「イシュー度」、二つ目が「解の質」であると述べています。

僕の考える「イシュー度」とは「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」、そして「解の質」とは「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い」となる。(p.26)

何かの問題解決を行う場合に「解の質」をあげるという作業は多くの人がやっていますが、「イシュー度」、すなわち、問いの質について着目することは見過ごされることが多いと思われます。「イシュー度」の低い問いを選択してしまうと、いくら「解の質」が高くても、価値の低い仕事になってしまいます。

良いイシューとは?

それでは、「イシュー度」が高いイシューとは何でしょうか。また、どうすれば良いイシューを発見できるのでしょうか。

著者の安宅氏は、良いイシューとは、本質的な選択肢であり、深い仮説があり、答えを出せるものである、と述べています。(p.55, 56

もう少し具体的にみてみましょう。

本質的な選択肢である

インパクトがあるイシューは、なんらかの本質的な選択肢に関わっている。「右なのか左なのか」というその結論によって大きく意味合いが変わるものでなければイシューとは言えない。すなわち、「本質な選択肢=カギとなる質問」なのだ。(p.57)

例えば、ビール会社の商品企画担当者ならば、新しい売れる商品を作らなければならない状況で『どんな商品が売れるのか』ということは必ず考えます。しかし、それでは抽象的すぎて「イシュー度」が低いので、『ビールを開発するか、発泡酒を開発するか』などの選択的な質問を立てます。

この時の問いをなるべく本質的にしていくことが必要で、もっと言えば、本質的な選択肢にしましょうということです。例えば、『若い世代にホワイトビールが売れているので、ホワイトビールと似た味の発泡酒を出すか、あるいはホワイトビールの日本版スタンダードを作るか』とかですね。

問いを本質的な選択肢にするのが重要というのは、ビジネスや研究だけではなく、日々の勉強でも同じです。

例えば僕は、Webライティングをする傍ら英語を勉強していますが、時間が足りないので次のような問いを立てています。『最速で英検1級単語を覚えるには、Aの方法論を使えばいいのか、Bの方法論を使えばいいのか。』このような問いは具体的な選択肢が出来上がっているので効果的です。

皆さんもぜひ自分の立場に置き換えて本質的な選択肢を考えてみてください。その視点が本書の価値を高めます。 

深い仮説がある

安宅氏は、良いイシューの条件として深い仮説があることを挙げ、具体的には、『常識を否定する』『新しい構造で説明する』の二つを挙げています。

・常識を否定する

仮説を深める簡単な方法は「一般的に信じられていることを並べて、その中で否定できる、あるいは異なる視点で説明できるものがないかを考える」ことだ。(p.62)

例えば、少し古い例かもしれませんが、日本のポップソングはAメロBメロサビが売れる構造とされているが、Aメロからすぐサビに行った方が実はリスナーにとってはいいんじゃないか、とかですね。企画を立てる段階、つまり良いイシューを発見する段階ではむしろ頭のネジを一本外すぐらいの方がうまくいくかも知れません。

・新しい構造で説明する

新しい構造で説明するには4つの着目すべき発見があり、すなわち、共通性の発見、関係性の発見、グルーピングの発見、ルールの発見である。(p.6570)

例えば、Webエンジニアリングを勉強法を解説したサイトが二つあって、両者に共通する勉強法を発見すれば、識者二人のお墨付きがもらえることになります。共通性を発見できれば情報の信頼度が上がりますね。

関係性の発見の例としては、ECサイトを持っている企業が自社サイトのアナリティクスを見て、ある商品のメインターゲットは20代ではなく30代だったことを発見するなど。

また、実は年代で分けるよりも地域で分けた方がマーケティングの説明がうまくいく、などはグルーピングの発見ですね。

ルールの発見の例をビジネス上で出すのはなかなか難しいです。しかし、データを細かく見ていけば、思いがけない本質的なルールを発見できることもあるでしょう。 

上記の発見により、今まではあまり知られていなかった新しい構造で物事を説明できます。 その時にイシューの価値は高まります。

答えを出せるものである

 「よいイシューの条件」の3つめは、イシューだと考えるテーマが「本当に既存の手法、あるいは現在着手し得るアプローチで答えを出せるかどうか」を見極めることだ。「現在ある手法・やり方の工夫で、その問いに求めるレベルの答えを出せるのか」。イシューの候補が見えてきた段階では、そうした視点で再度見直してみることが肝要だ。(p.73)

ここが独特で面白い視点です。安宅氏は、ビジネスに置けるプライシングの問題は多くの場合、答えの出せない問いであると述べていますが、この答えの出せない問いに本気で取り掛かると莫大な時間がかかり、満足した回答は出せずに終わることが多いので気をつけましょう、ということです。

現時点での自分の実力、あるいはグループの実力を分析して、答えの出せる問いを設定できることは、企画部門の方やクリエイターの方には重要なものです。この視点がないと、時間がかかった上に大した成果物が出せない危険性があります。

また、答えを出せるかどうか、イシューを設定する時に微妙なラインのものは、とりあえずプロトタイプを作ってみるというのも大事かと思われれます。

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おまけ:分析とは何か

最後に、著者の安宅氏は、『分析とは何か』について語っているので、紹介したいと思います。

僕の答えは「分析とは比較、すなわちくらべること」というものだ。分析と言われるものに共通するのは、フェアに対象同士を比べ、その違いをみることだ。(p.150)

高度に文明化された個人は、意識的にせよ無意識的にせよ、何かと何かを比較していることに気づきます。

ごく日常的な例を挙げると、今夜は鍋にしようと考えたとします。では肉にしようか魚にしようか。肉にしよう。では何肉にしようか。今夜は豚肉にしよう。豚肉の中でも鍋に合う薄切り肉にしたいけどちょい高いので、細切り肉で我慢しよう、など。

ビジネス上における質の高い分析とは、その比較の対象範囲を広くし、比較の制度を高めたものと言えるでしょう。 比較することで個々のファクターの何が重要で、そのファクターはなぜ重要になっているのかを探ることで、次に取るべき行動が見えてきます。 

長い間存在している企業はすでに膨大なデータを持っているはずなので、そのデータをなるべく精緻に分析することは大きなチャンスですね。もっともWebライター駆け出しの僕はそのデータを集めるまで日々の地味な努力が大切なのですが。

ただ、駆け出しのWebライターにも分析できることがありますね。そう、尊敬できるWebライターを複数人発見して、その人達の行動を分析(比較)し、自分の行動にも取り入れることです。

まとめ

以上、『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質』のレビューでした。

日々の忙しさにかまけると、問いの質が落ちてきて、とりあえず問いを立てて解答するという状態に陥りがちになります。一旦冷静になってその問いの『イシュー度』を考える作業ができれば、一歩進んだ知的生産ができますね。

本書には、具体的な知的生産のティップスが多く含まれるので、興味が出た方はぜひ読んでみてください。